現代建築家
佐野先生の撮った写真 よしやまち町屋校舎

あえて、床柱には使わない。

ー欧米のスタイルにも合うなんて、意外ですよね。

佐野:そうですね。
それで洋風化したモダンの住宅であまりに頻繁に、安易に使われてしまい、結果飽きられてしまったように思います。
でも北山杉はいわば都会的に洗練された素材なので、僕たちが思っている以上に使える範囲は広いんじゃないでしょうか。
北山杉といえば、どうしても日本建築に使われているとか床柱のイメージが先行してしまいがちですが、その認識を一度とっぱらって新しい視点で見てみることで、北山杉の可能性ってぐんと広がると思います。
ただ伝統を踏襲していくだけでは工夫がないですし、そのうち飽きられてしまいますから。
かといって、ただ奇抜なことをすればいいというわけではなく、日本の文化や建築の良いところがちゃんと生かされた新しい使い方を模索するのがいいでしょうね。
斬新な使い方でありながら、北山杉や日本建築の魅力や良さが再認識されるようなものをつくっていければ最高だと思います。

ー最近は北山杉を使った取り組みをされているのですか?

佐野:京都市の「平成の京町家」という伝統の木の文化に連なるエコな木の家づくりを目ざすプロジェクトがあって、その伝統型のモデルハウスを学生たちと建築する機会をいただきまして、今まさに設計をしているところです。(2012年3月現在)
伝統的な京町家といえば、床の間があってそこに北山丸太があり、縁側には縁桁丸太、化粧垂木に小丸太を使うというのが定式ですね。
もさすがに、今の時代にそれをそのままつくったら叱られてしまいます。
建築に関心のある方々も決して伝統スタイルが嫌いではないし、むしろ僕も含めて伝統ファンは多いのですが、今日、新築するモデルハウスに伝統的なものをそのままというのではあまりに拙いという気持ちは共通に持っておられるようです。
僕が日頃からおつきあいしている、伝統町家が一番と言っている棟梁にしても、明治から戦前にある町家のスタイルのままではダメだろうと。
何か今日的なものを出して前に進めてやらなくてはと言うんですね。
確かに伝統の町家は、家の中に土間の庭があったり、しっとり暗くて落ち着いた魅力がありますが、日常生活するには、暗くて寒いのはちょっと居心地が悪いですよね。
そこで今回の設計では中の間を吹き抜けにしてトップライトから燦々と光が降り掛かる明るい町家にしてみよう、と。
ムクの材現しの木組みと、小舞竹下地土塗り壁という構造や素材はまったく伝統のままで、空間構成がモダンというもの。
結構、評判いいですね。

で、この設計で北山丸太はどこに使われるかというと、実は構造材は全部京都の杉なんですね。
床の間が1階の座敷、2階の寝室に床の間代わりの地袋があるのですが、床柱に北山丸太を用いません。
今回はあえて飾りっ気無しの、素っ気ない家をつくろうと思っています。
ただ、2階の寝室の床の間の反対側に北山丸太を使おうと考えています。
全体の空間のほぼ中央にあって、壁の見切り材として、斜め天井まで突き抜けて2室をつなぐ役目をしていますから、ある意味で主役とも見えるとても大事な柱ですね。
ここに使うことで、空間の連続感が明確になり、肌の丸みでやわらかな印象が空間にニュアンスを演出してくれるはずです。
こういう使い方は伝統的な木造住宅に限らず、今の大壁の家や鉄筋コンクリートの空間、マンションにも可能でしょう。
たった1本だけ、手をかけて空間に入れ込んでやるだけでいいと思います。