—素材として北山杉に、建築の床柱だけでなく家具や工業デザインとしての可能性もあると思いますか?
朝倉:可能性はあります。ただ、北山杉は普通の杉とは違って様々なプロダクトに合わせて加工するものではなく、それ自体がひとつの完成品であるとすらいえるような特殊な杉です。
加工して使うならほかにいくらでも安くていい材料があります。
北山杉の美しさが生かされる丸太の状態をいかにパーツとして製品に組み込んでいくか、ということが今後のテーマかも知れませんね。
—最後に、京都の文化としての北山杉についてお伺いします。
「文化の継承」ということについて朝倉さんの考えを聞かせてください。
朝倉:難しい質問ですが…(笑)
文化というのは、ある時代のある風土における生活の中で自然に出来てくるものだと思います。
純和風がスタイルだった時代には北山杉の需要があったわけですが、時代の変化で和室が減れば北山杉の需要も少なくなっていってしまうのは自然の成り行きです。
北山杉に限らず、多くの道具や技術や習慣も時代の変化で自然消滅していっているのではないでしょうか。
そして、一度途絶えた文化を復活させることはほとんど不可能です。
北山杉のクローンや職人技術も、一度やめたら二度と復活させることができないでしょう。
そのなかで、継承すべき文化か否か、という判断基準の一つは質の高さだと思います。
北山杉の外観の美しさと受け継がれた血筋、職人技が高い質を誇るものだからこそ、自然の流れにまかせて消滅させてはいけないということです。
そのためには、ちょっと無理をしてでも残していかなければならないものだと思います。
—無理してというのは、継承しようとしなければ継承できないということですか?
朝倉:繰り返しになりますが、時代の流れに任せておけばいずれは自然消滅してしまいます。
だから、意識的に残していかなければならないということです。
—最近ではもともとある日本の高い技術が見直され、各地で様々な活動が行われていますね。
その流れで北山杉も継承していこうということですが、朝倉さんご自身、作り手として昔ながらのものをそのまま残す事、伝えるのが大事なのか、それともそれをアレンジしどんどん新しい時代をつくりあげていくべきか、どちらだと思いますか?
朝倉:ある時代に最も盛んに使われていた状態をそのまま残すことも、現代の生活に沿った形で存続させることも、どちらも必要だと思います。
前者は文化財の記録、保存的な観点から必要ですし、後者に関しては、時代背景が今とは違うとはいえ盛んだった文化には必ず、しかるべき理由があったはずで、それを再認識することにつながるのではないでしょうか。
たとえ現代の新しい技術や素材が入ってきたとしても、古いものにも簡単には代えがたい良さ…たとえば質の高い伝統的な技術などがありますから、必ずしも新しいものがすべてにおいて勝っているということではないということです。
ーその通りだと感じます。
今日はありがとうございました。